ギーガーさんちのお宅拝見
たとえギーガーを知らなくても、映画『エイリアン』の造形なら目にした人も多いでしょう。
またエマーソン、レイク&パーマー『恐怖の頭脳改革』のアルバムジャケットなど、多くのアーティストに影響を与えています。
本作はギーガー本人だけでなく多くの関係者が、創作の背景を語る「H・R・ギーガー財団」公認のドキュメンタリー映画です。
こうした企画は、外枠があらかじめ決められていて、予想を1歩も踏みはずさない内容になりがち。
ところが、本作では大またでずずずいっと踏みこんでます。
「ファンですか?じゃあ、ご案内しましょう」的に進みます。
庭には優美な女性像。緑の植物がからみつくうしろすがたには、ギーガーの特徴的な表現がきざまれています。
彼の芸術の核心にせまる興奮、あじわってみませんか?
意外や意外
ダリのようにミューズの夫人と2人で静かに暮らしているのかと思ったら、画面の人口密度高!なごやかな家族のような絵面が意外。
義母の証言
娘の夫が、あのギーガーと聞くとみんな興味をもつみたい。
夫としてのギーガーはどんな人?って。
親戚ともなごやかって、闇世界の画家のイメージとぜんぜん違うのにびっくり。
秘書の証言
ギーガーにファンレターを書いたら、彼が電話をくれたんだ。
無名のバンドのアルバムジャケットに、絵を使わせてくれたんだ。
彼がどれだけ寛容だったことか。
本当に恩人だよ!と力説してると、ネコを追いかけて部屋に入って来たギーガー。
「おたがいさまだ」ゆっくり歩くギーガーは、さながら大きなネコのよう。
幼なじみの証言
子どもの頃ギーガーは幽霊電車という乗り物が気にいった。
それを自分でつくって、みんなを有料で乗せたんだ。
どれだけ器用で行動力ある子どもなんだ?友だちみんな乗りたがるほど、いい出来だったんですね。
有料というところに、ちゃめっ気とギーガーが人気者だったのがわかります。
きっとギーガーおもしろい友だちなんでしょうね~。
異世界の案内人
なかでもいちばん驚いたのは、あの緻密な絵を下書きなしで描くということ。
エアブラシでいきなり描きだすから、ギーガー自身も描きおわるまで、どんな絵になるかわからないんじゃないかな。
彼の絵には、その世界の温度も匂いもある。
別に存在している世界を、彼はわれわれに案内してくれる。
なるほど、そう聞くと彼の温和さのわけがわかります。
闇はすべて絵に注がれてしまうから、まわりはギーガー自身にひかれるのでしょう。
まとめ
彼の才能は、絵にくわしくなくても一目でわかります。
そんなギーガーの人間性にふれられる貴重な作品となりました。
元妻ともずっといい関係でいられるギーガー。
画業を記録するだけではなく、その人となりまでも残したい。
そんな関係者の思いが伝わるような作品です。
シナリオに沿って発言せずとも、どの切り口でも自然に人をひきつけているようす。
ギーガーってこんな人だったんだ!と驚かされることうけあい。
画集がひと味ちがって見えます。